※本シリーズは、雑誌『機械設計』2026年1月号(日刊工業新聞社)特集2 第3部に寄稿した記事を、要約・改編してお届けします。

本シリーズの核心:2つの分野は「同じ構造」を持っている

機械安全とサイバーセキュリティは、一見まったく別の分野に見えます。しかしその設計思想やアプローチには、驚くほど多くの共通点があります。

今回はシリーズの核心として、機械安全の知見をそのままセキュリティに活用する方法を解説します。

けがの発生とサイバー攻撃は、驚くほど似ている

機械安全でおなじみの、けがの発生モデルから見てみましょう。

機械安全のけがの発生モデル。危険源に人が接近して危険状態となり、危険事象を経て危害に至る流れ

危険源にヒトが接近して危険状態が生まれ、挟まれ・巻き込まれといった危険事象を経て、危害に至るという流れを、サイバー攻撃に置き換えてみます。

けがの発生モデルになぞらえたサイバー攻撃の発生モデル。資産の脆弱性に攻撃者の脅威が作用し、侵害(インシデント)を経てダメージに至る流れ

資産の脆弱性に攻撃者(脅威)が作用して侵害(インシデント)が起こり、暴走や停止といった挙動を経てダメージに至るという流れになります。

どちらも「潜在的なリスク要因が、引き金によって顕在化し、事象を経て被害に至る」という同じ構造です。

用語を対応させれば、道具はそのまま使える

両分野の用語を並べると、対応関係がはっきり見えます。

機械安全とサイバーセキュリティの用語対応表。危険源は脆弱性、ヒトは脅威、危険事象は侵害、危害はダメージに対応する

この対応がわかれば、「危険源を特定する」作業は「脆弱性を洗い出す」作業に、「危害の重大性を評価する」ことは「影響度を評価する」ことに相当します。
つまり、機械安全で培ったリスクアセスメントの考え方を、サイバーセキュリティにそのまま適用できるのです。

設計思想も共通:本質的安全設計とセキュアバイデザイン

対応関係は設計思想にも及びます。機械安全の「本質的安全設計」(危険源の除去・低減)と、セキュリティの「セキュアバイデザイン」(脆弱性をつくらない設計)は、設計段階で根本的にリスクを低減するという同じ思想です。

実装例も対をなします。

  • エネルギー源の排除 ⇔ 不要な機能・接続の排除(機能の最小化、接続箇所の最小化)
  • 構造的設計(最小隙間) ⇔ 最小権限設計
  • フールプルーフ設計 ⇔ 攻撃されにくい構造のつくり込み

目指す成果も同じ形です。機械安全は「故障・誤使用があっても危害に至らない」、セキュリティは「攻撃されても危険な挙動に至らない」ことを目指します。

両者に共通するのは、「設計段階での根本対策を最優先する」という思想です。
機械安全では、ガードやインターロックといった防護装置に頼る前に、まず危険源そのものの除去・低減が求められます。
同様にセキュリティでも、ファイアウォールや侵入検知に頼る前に、まず攻撃対象となる侵入経路をつくらないことが重要です。

ISO 12100の3ステップメソッドもそのまま応用できる

ISO 12100の3ステップメソッドとサイバーセキュリティ対策の対応図。本質的安全設計は機能・接続・権限の最小化と既知の脆弱性の除去、安全防護・付加保護方策はセキュリティ機能の実装、使用上の情報はセキュリティポリシーや訓練に対応する
  • ステップ1(本質的安全設計):まず危険源そのものを除去・低減します。セキュリティでは、不要な機能・接続・権限を設計段階で最小化し、既知の脆弱性を除去することで、攻撃の足がかりをそもそもつくらないことに相当します。狙いは「発生させない」ことです。
  • ステップ2(安全防護・付加保護方策):除去しきれないリスクには、ガードやインターロックといった防護装置で防ぎます。セキュリティでは、ファイアウォール、IPS/IDS、認証、暗号化といったセキュリティ機能の実装がこれにあたります。狙いは「起きないように防ぐ、起きてもすぐにつぶす」ことです。
  • ステップ3(使用上の情報):それでも残るリスクは、警告表示や取扱説明書、教育を通じて使用者に伝えます。セキュリティでは、セキュリティポリシーや操作手順書、訓練、インシデント対応手順の整備が対応します。狙いは「使う人に伝え、備え、意識してもらう」ことです。

この3ステップは「発生させない→防ぐ・つぶす→備える・意識させる」という優先順位を明確にしており、どちらの分野でも有効です。

リスクアセスメントのプロセスも同じ流れ

リスクアセスメントの進め方も、両分野で非常によく似ています。サイバーセキュリティでの流れはIEC 62443-3-2にも規格化されています。

  • 機械安全(ISO 12100):制限の決定 → 危険源特定 → リスク見積もり・評価 → 3ステップでリスク低減
  • サイバーセキュリティ:制限の決定(セキュリティコンテキスト*の特定)→ 脅威・脆弱性特定 → リスク見積もり・評価 → 3ステップ類似の対策

*) セキュリティコンテキスト:機械規則の整合規格として開発中のprEN 50742では、機械の使用者・使用環境・運用ルールといった前提条件を「セキュリティコンテキスト」と呼び、安全分野の「意図する使用」に相当するものと位置づけられています。

注目したいのは、どちらも「制限の決定」から始まる点です。
機械安全で「使用目的、使用者の範囲、操作環境」を定義するのと同様に、セキュリティでも「システム構成、外部インターフェイス、アクセス権限」を定義します。
この最初の一歩が、その後のリスクアセスメントの精度を左右します。

統合設計のメリット

ISO 12100の考え方をサイバーセキュリティに応用することで、次のメリットが得られます。

  • 既存の知見の活用:機械安全で培ったリスクアセスメント手法を転用できる
  • 体系的な対策:3ステップメソッドによる段階的・優先順位づけされた対応ができる
  • 一貫した設計:設計段階から出荷後まで、一貫したリスク管理ができる

現代の産業機械は、物理的な安全性とサイバーセキュリティの両方を同時に確保する必要があります。
両者の共通点を理解し、統合的に設計することが、これからの機械設計に求められます。

まとめ

  • けがの発生とサイバー攻撃は「潜在要因→引き金→事象→被害」という同じ構造を持つ
  • 危険源⇔脆弱性、危害⇔ダメージのように用語を対応させれば、リスクアセスメント手法を転用できる
  • 本質的安全設計⇔セキュアバイデザイン。「設計段階での根本対策を最優先」という思想が共通
  • ISO 12100の3ステップメソッド、リスクアセスメントのプロセスもそのまま応用できる

まずは普段お使いの機械安全リスクアセスメントの様式を開き、各欄をサイバーの用語に置き換えてみることが第一歩です。
見慣れた道具が、そのままセキュリティの道具になることを実感できるはずです。

次回は、設計フェーズで実施できる具体的なセキュリティ対策を解説します。


初出:『機械設計』第70巻第1号(2026年1月号)特集2 第3部「機械設計者のためのサイバーセキュリティ入門」(日刊工業新聞社)