※本シリーズは、雑誌『機械設計』2026年1月号(日刊工業新聞社)特集2 第3部に寄稿した記事を、要約・改編してお届けします。

攻撃は「段階」を踏んで進む

産業機械を取り巻く脅威は多様化しています。効果的な対策の第一歩は、攻撃者の手口を知ることです。

攻撃は一撃で完結するわけではなく、「偵察→侵入→拡大→破壊」という段階を経て進行します。この段階ごとに防御を考えるのが、後述する多層防御の出発点になります。

産業機械を狙う代表的な攻撃

実際に起きている攻撃パターンを5つ挙げます。

  • ランサムウェア攻撃:制御システムのファイルを暗号化し身代金を要求。数日〜数週間の生産停止につながった事例が国内でも発生
  • フィッシング・なりすまし:偽メールでIDやパスワードを窃取し、正規の管理者権限で制御システムに侵入
  • USBメディア経由の感染:保守用USBメモリにマルウェアが潜伏。物理的に隔離されたネットワークすら突破する(イランの原子力施設を破壊したStuxnetがこの手法)
  • HMI・保守端末経由の侵入:操作端末や持ち込みの保守用ノートPCが感染源になる
  • 内部不正:正規のアクセス権限を悪用するため、検知が困難

攻撃者が突くのは、技術の穴より「油断」

並べてみると気づくことがあります。攻撃者は必ずしも高度な技術を使っていません。むしろ突かれるのは、人の「油断」です。

  • 出荷時の初期パスワードのまま使い続けている
  • 保守作業の持ち込みPCにウイルス対策ソフトが入っていない
  • メンテナンス用USBメモリを複数の機械で使い回している
  • 「ネットワークにつながっていないから大丈夫」と思い込んでいる

心当たりのある現場は少なくないはずです。だからこそ対策は、技術と人の両面で考える必要があります。

防御の基本方針は4つ

防御の4つの基本方針の一覧図。①多層防御、②セキュアバイデザイン、③技術と人の両立、④早期発見・早期対応
  • ①多層防御:単一の防御策は必ず突破されます。攻撃の各段階に対応した複数の防御層(ファイアウォール、ネットワーク分離、異常検知、アクセス制御)を重ね、1つ破られても次で食い止めます
  • ②セキュアバイデザイン:後から対策を足すより、設計段階で機能・接続・権限を最小化し「攻撃されにくい構造」をつくり込むほうが、コストと効果の両面で優れます
  • ③技術と人の両立:フィッシングや内部不正は技術だけでは防げません。教育・訓練と手順書の整備が同等に重要です。最後の防波堤は「人」の判断力です
  • ④早期発見・早期対応:侵入を完全に防ぐことは不可能です。異常を早く見つけ、素早く対応する体制が被害を最小化します

このうち①の多層防御を図解すると、次のようなイメージです。攻撃の4つの段階と防御層の枚数が対応している点がポイントです。

多層防御の概念図。偵察・侵入・拡大・破壊という攻撃の4段階それぞれに防御層を設け、1つの層が突破されても次の層で食い止める

まとめ

  • 攻撃は「偵察→侵入→拡大→破壊」の段階を経て進行する
  • 攻撃者が突くのは高度な技術より、初期パスワードや持ち込みPCといった「油断」
  • 防御の基本方針は、多層防御・セキュアバイデザイン・技術と人の両立・早期発見の4つ

まずは先ほどの「油断」4項目を自社の設備に当てはめてチェックしてみることが第一歩です。これだけでも侵入経路はぐっと減らせます。

次回は本シリーズの核心、「機械安全とサイバーセキュリティの共通点」を解説します。ISO 12100で培った考え方が、そのままセキュリティに使えることが分かるはずです。


初出:『機械設計』第70巻第1号(2026年1月号)特集2 第3部「機械設計者のためのサイバーセキュリティ入門」(日刊工業新聞社)