※本シリーズは、雑誌『機械設計』2026年1月号(日刊工業新聞社)特集2 第3部に寄稿した記事を、要約・改編してお届けします。

セキュリティは設計フェーズで組み込むほど安くなる

機械設計の初期段階からセキュリティを組み込むことで、後工程での修正コストを大幅に削減できます。
前回解説した「設計段階での根本対策を最優先する」思想の実践編として、今回は設計フェーズで実施すべき4つの対策を解説します。
最初の脅威分析で必要な対策を導き出し、それをネットワーク・認証・監視の設計に組み込んでいく、という一連の流れです。

対策1:脅威分析(リスクアセスメント)の実施

設計開始時に、想定される脅威を洗い出し、製品に組み込むべき対策を計画します。

進め方は機械安全のリスクアセスメントと同じ要領です。
まず保護すべき資産(データ、機能、インターフェイス)を特定し、不正アクセス、データ改ざん、DoS攻撃といった脅威を識別します。各脅威に対する脆弱性を評価し、影響度と発生確率からリスクレベルを決定します。
そのうえで、許容できないリスクに対して、コストと効果のバランスを考慮しながら組み込む対策を選定します。
脅威の洗い出しには、STRIDEやDREADといった脅威モデリングの手法が活用できます。

対策2:ネットワーク構成の検討

ゾーニング(ネットワーク分離)が基本です。
制御ネットワーク、情報ネットワーク、外部ネットワークを明確に分離し、ファイアウォールやDMZで各ゾーンを隔離します。

ゾーニングを施したネットワーク構成例。インターネットから情報ネットワーク、DMZ、制御ネットワーク、フィールドネットワークまでをファイアウォールで段階的に隔離する

制御ネットワークにはPLCやセンサなどの制御機器を、情報ネットワークには生産管理システムを配置します。ポイントは、情報ネットワークと制御ネットワークの間にDMZを置くことです。
これにより、外部から制御ネットワークへ直接侵入されることを防ぎます。

通信経路の設計では、必要最小限の通信のみを許可するホワイトリスト方式を採用し、TLS/SSLやVPNによる暗号化通信を実装します。
可用性確保のための冗長構成を考慮しつつ、重要な制御系は物理的に独立したネットワークに配置することが望ましいです。
無線通信の使用は、セキュリティリスクを慎重に評価したうえで判断します。

対策3:データ保護と認証の実装

データ保護では、保存データと通信データの両方を暗号化し、デジタル署名やハッシュ値による完全性検証を行います。
定期的なバックアップと復旧手順を確立し、不要な機密データはそもそも保存しないようにします。

認証・アクセス制御では、多要素認証(パスワード+生体認証やトークン)を導入し、役割ベースのアクセス制御で職務に応じた権限を設定します。
最小権限の原則に基づき必要最低限のアクセス権のみを付与し、デフォルトパスワードは初期設定時に必ず変更させます。
セッション管理では、タイムアウト設定や同時ログイン制限を設けます。

対策4:ログ記録と監視の仕組み

ログ記録では、アクセスログ(成功・失敗)、設定変更履歴、異常動作やエラー、ファームウェア更新履歴などを記録します。
ログは改ざん防止のため暗号化して外部ストレージへ転送し、保存期間は法規制や社内規定に準拠して設定します。

監視とアラートでは、異常なトラフィックや不正アクセス試行をリアルタイムで検知し、許容範囲を超えた動作には即座にアラートを発します。
SIEM(セキュリティ情報イベント管理システム)と連携した定期的なログ分析により、インシデントの予兆を発見できます。

インシデント対応準備として、発生時の対応手順書と担当者への連絡体制を整備します。
復旧手順を文書化し、定期的にテストを実施します。

4つの対策は「サイクル」で機能する

これら4つの対策は、独立したチェック項目ではなく相互に連携して機能します。
脅威分析で特定したリスクに基づいてネットワークを設計し、適切な認証・暗号化を実装し、継続的な監視で異常を早期発見する。このサイクルを設計段階から組み込むことが、セキュアな機械システムの基盤になります。

まとめ

  • 設計初期からのセキュリティ組み込みは、後工程での修正より低コストで堅牢
  • 4つの対策:脅威分析、ネットワーク構成(ゾーニング)、データ保護と認証、ログ記録と監視
  • 情報ネットワークと制御ネットワークの間にDMZを置き、外部からの直接侵入を防ぐ
  • 4つの対策は相互に連携するサイクルとして設計段階から組み込む

まずは自社の機械のネットワーク構成図を開き、ゾーンの分離とDMZの有無を確認してみることが第一歩です。
図と見比べるだけで、現状の構成の弱点が見えてきます。

次回は最終回として、リスクアセスメントから始める「今日から始められる第一歩」を解説します。


初出:『機械設計』第70巻第1号(2026年1月号)特集2 第3部「機械設計者のためのサイバーセキュリティ入門」(日刊工業新聞社)