機械安全の設計において、安全機能(SRP/CS)の正しい使用を確保することは極めて重要です。しかし、現場では作業効率を優先し、安全機能を意図的に無効化する(バイパスする)ケースが発生することがあります。これが原因で多くの事故が発生しているのです。

ISO 13849-1:2023の改訂版では、この問題に対応するために**「5.2.3 安全機能の無効化動機を最小限にする」**という新しい要件が追加されました。本記事では、この新規追加された内容について解説します。

5.2.3 安全機能の無効化動機を最小限にするとは?

ISO 13849-1:2023の5.2.3では、作業者が安全機能をバイパスする動機を最小限に抑えることをSRP/CSの設計において考慮すべきであると明記されています。これは、単に「安全機能を設置すればよい」という発想ではなく、「作業者が安全機能を意図的に無効化しないように設計する」ことが求められることを意味します。

なぜ安全機能がバイパスされるのか?

規格では、作業者が安全機能を無効化する主な理由として以下のような状況を挙げています:

  1. リスク低減策が作業の実行を妨げる → 例: インターロックを無効化しなければ、動点検や調整が行えないケースがある。
  2. 想定外の作業が発生し、リスク評価が不十分 → 例: 設計時に考慮されていなかったメンテナンス作業が必要になる。
  3. 生産性に悪影響を与える → 例: ガードの開閉が頻繁に必要なのに、その都度手間がかかる。
  4. 使いにくい安全機能 → 例: 作業に合わせて、安全機能のボタン操作が必要で、作業が煩雑になっている。
  5. 安全機能の重要性が認識されていない → 例: 作業者が安全機能を知らない、または「この安全機能は不要だ」と思い込んでしまう。
  6. ハードウェアやソフトウェアへの無制限アクセス → 例: 誰でも簡単に安全機能の設定を変更できる状態となっている。

設計上の対策

これらの問題に対処するために、以下のような設計の工夫が推奨されます。

1. 作業しやすい安全機能を設計する

例: 安全機能のための作業動作ができるだけ不要になるような設計を行う。(セーフティライトカーテンによる自動停止など)

2. 作業に適したリスク低減策を導入する

例: 作業モード(メンテナンスモードなど)に応じた安全機能(安全速度制御(SLS: Safely Limited Speed)など)を活用し、安全性を維持しつつ作業を可能にする。

3. 教育と意識向上を促進する

例: 作業者が安全機能の重要性を理解できるよう、定期的な研修を実施する。

4. 安全機能の設定変更を制限する

例: 管理者のみが安全機能を変更できるようにし、不適切な変更を防ぐ。

5. ISO 14119の活用

ISO 14119(インターロック装置に関する規格)を適用し、バイパス防止策を強化する。

まとめ

ISO 13849-1:2023に追加された5.2.3では、安全機能の無効化動機を最小限にするための設計が求められています。これにより、作業者が「安全機能を無効化せずに済む」環境を作り、安全と生産性のバランスを取ることが可能になります。

機械安全は「ルールを守らせる」のではなく、「ルールを守りたくなる環境を作る」ことが重要です。この考え方を設計に取り入れることで、安全で効率的な作業環境を実現しましょう。